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東京高等裁判所 昭和24年(新を)215号 判決

控訴人 被告人 小久保産業株式会社 小久保儀三郎

弁護人 木村篤太郎 外四名

検察官 鈴木正二関与

主文

被告会社に対する原判決中第二期の中間逋脱罪並びに第二期確定の逋脱罪に関する部分を破棄する。

右判決中前記部分以外に対する被告会社の本件控訴は棄却する。

被告人に対する原判決はこれを破棄する。

被告会社に対する第二期確定の逋脱罪並びに被告人に対する本件は東京地方裁判所に差戻す。

本件公訴事実中第二期の中間の逋脱罪に関する分については被告会社並に被告人はいずれも無罪。

理由

弁護人木村篤太郎、井本台吉、渡辺靖一、小林蝶一、是恒達見の控訴趣意は末尾添附の控訴趣意書と題する書面記載の通りで、これに対する当裁判所の判断は次のようである。

第一点法人税法第四十八条に所謂詐欺其の他不正行為というのは所論のような積極的行為に限らない。広く詐欺その他の一切の不正行為をいうので必ずしも税務官吏が法人の所得や資産を調査するに際し、これに虚偽の答弁をするような行為に限らないのである。原判示によれば被告人は被告会社の代表者として会社事業の一切を統轄していたが判示生産工場の設備資金に充てるため別に資産を作り(B資産)その別口資産は被告会社の取引のうち法定価格超過売上額即ち闇所得所謂出目製品又は進駐軍に納入すべきもののうち不合格品の売上額を以てし、右B資産は法人税所定の所得申告をなすときにはこれを計上しないこととし、判示所得申告をなすに際し判示のように実際の所得より遙かに少額の所得しかなかつた旨虚偽の申告をして、これに基き法人税として判示の税額を納付し以て判示法人税を逋脱したというのであるから不正行為により法人税を免れたと解すべきは当然である。又被告人の判示行為は所謂期待可能性ないものと認めることはできない。原判決が判示第一の(一)の事実に対し判示法条を適用したのは相当である。論旨は理由がない。(判示第一の(二)(三)については後述のように原判決は破棄を免れないからこの分については判断を省略する。第二点以下の論旨についても同じ。なお同一の論旨か数個の論点中に展開されている場合には最初の論点においてこれに対し、なした判断は他の論点におけるそれに援用する。)

第二点法人の代表者が正規の法人税所定の期限までに納付せないで不正行為によりこれを免れたときは直ちに法人税法第四十八条の犯罪が成立する。その後訴追前に修正申告したときでも右犯罪の成立に関係なく、その修正した分についても成立する。只かような事情は刑の量定に影響あるだけである。従つて原判決が判示のように被告人の不正行為により被告会社の法人税を逋脱した後所論修正申告があつたに拘らず判示逋脱税額全部について犯罪の成立を認めたのは正当である。論旨は理由がない。

第三点法人税法第二十一条の中間報告は概算申告的の性質を有するものと解するのが相当である。蓋し同条第二項は同法第十九条第二項を準用し中間申告に際しては概算による計算書の提出を求めているばかりでなく同法第二十二条第一項の確定申告をなす場合には法定事業年度全体についての決算に基いて所得申告をなすべき旨規定している即ち中間申告した分についても確定申告をなすべき旨を規定しているのである。もし中間申告が確定申告ならばいわゆる看做事業年度の所得については確定申告を二重にすることになるのである。中間申告が概算申告であるから同法第二十二条がこの中間申告の分についても確定申告をなすべきことを命じているのである。中間申告は過去の所得に関するもので、その申告当時において確定していて計上し得るものは凡て計上して課税標準を算出して所定の税額を納付すべきことは勿論であるが、これがために中間申告は確定申告と解するのは不当である。過去の所得でも事業年度の決算が確定していない場合には概算申告をするより他に方法がないので、現に法律もこれを認めているのである(同法第二十二条第三項参照)。又同法第二十九条が一定の場合に確定申告については課税標準の更正を必要的としているが中間申告についてはこれを任意的としている点から考えても中間申告の独立性を否定したものと解するのが相当である。且つ中間申告に独立性を認めると上半期の所得と下半期の所得とが著しく異なる場合には納税義務者に多大の不利益を蒙むらせることがあるのである。元来中間申告の制度は現時わが国家財政及び経済状況に鑑み、法人をして成るべく早く納税させる必要があるのと他面個人納税の場合の予定申告の制度との権衡をも考えて設けられたのであるがこの国家の早期徴税の必要から直ちに中間申告を確定申告と解するのは早計である。中間申告を概算申告と解しても法人は所定の税額を所定期限までに納付せねばならないことになつているのであるから国家の早期徴税の要求を無視しないのである。中間申告を確定申告と解すると前述のように個人の利益を著しく害することとなるから資本主義下のわが国の税法の解釈としては明確な規定のない以上確定申告説は採用すべきでない。むしろ概算申告説を裏付ける規定の存することは前述の通りであるから中間申告は概算申告の性質を有するものと解するのが相当である。即ち同法第二十一条が六箇月間を一事業年度とみなし、いわゆる看做事業年度を設けたのは単に法定の納税期間の設定即ち計算期間を規定したに過ぎないので、中間申告に基く納税額は法定事業年度の確定申告に基く終局的税額と差引が行はれる運命をもち、次の納税期に至るまでは暫定的なもので、確定的、独立的な性質を有するものでない。従つて中間申告をなすに当り脱税の目的で不正行為をしても脱税の未遂で租税を逋脱したものということはできない。従つて無罪である。然るに原判決は中間申告は確定申告の性質を有するものとなし、判示第一の(二)の中間申告の分も既に法人税を免かれたものとして有罪としたのは違法で、この分は破棄を免れない。論旨は理由がある。

前述のように前記第一の(二)の分が無罪だとすれば同(三)の脱税額に自ら影響する。且つ原判決は右(三)の申告に際し被告会社の納税について何等判示していないが、記録を検討するとこの点について原判決は事実の誤認の疑がある。もし何等納税がなかつたとすれば逋脱額は原判決の弍千六百二十二万六千五十二円六十銭より多くなるようである。故に原判は判示第一の(三)の分は事実誤認があつて破棄を免かれない。

第六点(一)法人の代表者が法人の業務に関して犯罪行為をなしたため法人も代表者と共に処罰せられる場合は実体法上の共犯ではないが訴訟費用の殆んど全部は両者のためにする証拠調から生ずるのであるから刑事訴訟法第百八十二条に所謂共犯と解するのが相当である。故に原判決が右法条により被告人と被告会社とに対して訴訟費用の連帯負担を命じたのは正当である。(他の論旨に対する判断は省略する。)

以上の理由により被告会社の控訴については被告会社に対する原判決中判示第一の(二)の第二期の中間の逋脱罪同(三)の第二期の確定の逋脱罪に関する部分は刑事訴訟法第三百八十条、第三百八十二条、第三百九十七条に従いこれを破棄し右(二)(三)以外の分に対する控訴は同法第三百九十六条に従い棄却し、被告人の控訴については同法第三百八十条 第三百八十二条、第三百九十七条に従い全部破棄し、(論旨第七点に対する後段の説明参照)被告会社に対する右第二期の確定の逋脱罪並被告人に対する本件は同法第四百条により原裁判所に差戻し、なお本件公訴事実中第二期の中間の逋脱罪に関する部分については被告会社並びに被告人に対し同法第四百条但書第四百四条第三百三十六条に従い無罪の言渡をすべきものとする。

仍て主文の通り判決する。

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

控訴趣意書

第一点原判決は其の犯罪事実の中「被告人……工場設備資金捻出の為法人税の課税対象とならない別口資産を作り……前記B資産はそれを設けた趣旨に従い、被告会社の法人税法所定の所得申告をなす時にはこれを計上しないこととし、同人の計算の許に」法人税を逋脱したと做し、証拠の中で法人税法(以下法と略称す)第四十八条の「詐欺行為(正確に言えば詐欺行為)とは不正行為の例示であり、不正行為とは、逋脱の目的を以つてなすところの逋脱を可能ならしめる一切の行為である。本件に於ては一般には秘匿しておき、所得申告に際しては計上しない意図の下にB伝票やB帳簿を作成し所得申告に際して提出したる被告会社の決算報告書、貸借対照表にはその伝票や帳簿に記載した資産を計上しないのであるから、同条の不正行為として何等欠くるところがない。……寧ろこれ等を呈示せず秘匿しておいたことが不正行為の一要素となるのである」と説明して居る。之を要約すると別口の伝票又は帳簿を作つて納税額の過少申告をすれば夫で詐偽其の他不正行為に依り税金を逋脱したと言うことになる。法第四十八条に所謂「詐偽其の他不正行為により」とは如何なる意味であるか、例えば書面調査又は実地調査に際し事実を偽つた答弁を為し其の結果税務官吏をして錯誤に陷らしめたような場合、或は二重帳簿を作成し税務官吏をして所得金額の僅少なるものと誤認せしめた場合のように、納税者の積極的行為のある場合には詐偽其の他不正行為によるものと言い得るが、単に虚偽の申告を為し又は申告を怠つたに過ぎない場合は仮令結果に於て脱税となつても脱税犯は成立しないのである。(大蔵省主税局小林長谷雄、岩本厳共著所得税法詳解七四〇頁以下参照)即ち単に別口の伝票又は帳簿に基いて納税額を少なく計算して過少申告をしたからと言つて之で直ちに法第四十八条が成立すると言うのは法律の解釈を誤つていると思う。其の理由は次の通りである。

一、申告納税制度に於ける納税者の申告は殆ど全部が過少申告である。原審第四回公判に於いて大蔵事務官国税査察官收税官吏大谷富次は証人として、問 申告納税制度ニナツテカラ業者ノ申告通リ税額ガ決定サレテ居ルノハドノ位デスカ、答 申告通リデアツタノハ私ノ知ル限リデワアリマセンデシタ更正決定ガ大体百パーセントニ近イノデス、問 デハ殆ド真実ニ申告シテイナイコトニナルノデスカ、答 ソウデス、と述べている。若し過少申告だけで詐偽其の他不正の行為があつたもの(明里長太郎著「税務と会社経理」二四〇頁)と言う考え方をすれば申告納税者は悉く逋脱犯と言うことになる。

元来法は規範を定立して一定の行為はこれを為すべしと命じ若くはこれを為すべからずと禁止し以てわれわれに一定の態度を義務ずけて居るが法は不能を強いるものではない。規範はその内容たる命令若くは禁令の履行の可能なることを前提としこれを限度とする。而してその可能といい不可能というも絶対的意味における能不能というのではなく、一般普通人にとつて義務の履行が可能なりとして期待せられるかどうかを標準とする。誰にも期待出来ない様な国民の大部分のものが犯罪者と認められる様な法律はある筈がないし、若しあれば夫は解釈の仕方が間違つている。換言すれば過少申告丈では詐偽其の他の不正行為とは認められない。

二、別口の伝票又は帳簿の作成が過少申告の材料になつた丈では詐偽其の他の不正行為にはなり得ない。それは納税者の積極的行為がないからである。「詐偽其の他の不正行為により」と言う以上は之等の行為に依つて税金を逋脱したことを言うのである。単に別口の伝票又は帳簿を作つている丈では税務官吏に何等積極的に働き掛けていないので詐偽其の他の不正行為を為したとは到底言い得ない。

要之法第四十八条に所謂「詐偽其の他不正行為により」云々を逋脱に関係ある一切の不正行為なりと解しB伝票やB帳簿を秘匿した消極的又は不作為も之に包含せしめたのは法律の解釈を誤つたか判決の理由に錯誤の存する違法があつたものと思う。

第二点原判決は弁護人が「本件では訴追前に修正申告をしたのだから逋脱は未遂に止まり、単なる不実申告である」との主張に対し過少申告と同時に逋脱が既遂となり逋脱犯成立後の修正申告は許されざるものと説示している。然し乍ら本件に於ては被告人は法第二十五条に則り自ら進んで申告修正を為し、右申告修正に依つて法第二十九条の課税標準の更正を受けているのである。法第四十八条第三項は「第一項の場合においては政府は直ちにその課税標準を更正又は決定し、その税金を徴収する」と規定しているので同条第一項の犯罪成立には逋脱の部分に関する更正又は決定のないことを前提とする事は明かである。而して本件被告人の如く既に自ら進んで脱漏を訂正して更正決定を受け刑罰類以の追徴税を受けて居る以上、法第四十八条第一項の逋脱犯は成立しないと解すべきであると思う。

申告納税制度に付て一部の論者は納税期到来と同時に客観的抽象的には特定個人の納税義務が発生し其の特定個人が過少申告を為すと同時に申告漏れの部分は脱税なりと主張する様である。然し乍ら申告書を提出して一応の納税をした後に於ても法第二十五条に依れば法人が法第十八条乃至第二十二条に依り申告をした後「脱漏があることを発見したときは」直ちに政府に申出て申告書を修正し法第二十六条により税金を納付することが出来るのである。原判決は脱漏は善意の脱漏であり故意の脱漏は含まないと説示して居るが、何等の根拠なき独断論であつて、寧ろ実際の取扱は故意の脱漏をも含んでいる。且つ最初の申告又は修正申告の何れに対しても法第二十九条は政府に於て調査した課税標準と異なるときは更正決定を為し、これを納税義務ある法人に通知し、該通知を受けた法人は一ケ月後を納期限として追徴税額を納付する事になつているのである。而して之等の法人税に付ては納期後の税金に付ては日歩十銭の加算税と当該税額に百分の二十五の割合を乗じて算出した追徴税の刑罰的制裁が付いている。斯様な刑罰的制裁を加えた上に更に逋脱犯として追究せんとするのは法の解釈の行き過ぎである。

元来過少申告はそれ丈では何等政府の確認を経ていないので、これ丈では税の逋脱にはならない。即ち政府が過少申告を漫然認容したのみでは何等不正手段が伴わないから犯罪にはならないのであつて、税務官吏が種々の調査を為すに際し積極的に詐偽その他不正行為をなしそして目的を達したとき始めて逋脱犯が完成するのである。而して積極的に詐偽その他不正行為があつた場合でも政府の更正決定が相当であれば当該法人は脱税の目的を達したのでないから法第四十九条の秩序犯に止まるのみで法第四十八条の逋脱犯は成立しないものと思料する。

以上申述べた如く本件は逋脱犯の未遂で犯罪にはならないから之に法第四十八条を適用して処罰した原判決は破棄さるべきである。又弁護人の主張を本件逋脱犯は未遂で単なる不実申告であると主張すると説示し乍ら、之を排斥するのかしないのか判然した結論を出さないのは判決に理由不備の違法あり原判決は破毀さるべきものと信ずる。

第三点原判決は予備的訴因を採用して詳細に説示せられた上結局法第四十八条の適用上中間申告の場合は確定申告の場合と同様に逋脱犯の対象となるべきであるから中間申告に於ける逋脱犯は独立して成立するものであるとなし判示第一の(二)の申告分即ち第二期中間の逋脱罪につき罰金参千五百万円に処する旨判決せられた。然れども中間申告について逋脱罪は独立して成立するものではない。凡そ租税法上に於ける法規の解釈はその目的、経済的意義及びそれらの諸関係の発展を考慮せられねばならない。則ち、

(一)原判決は法第二十一条の制定によつて事業年度は法人税法の適用上即ち徴税上二分したものと解するのが妥当である。従つて中間申告による納税義務は法第二十一条によつて新しく認められた独立の義務と解すべきで法人が自己の営業上設けた事業年度は懲税の目的上否定せられたのであると判示した。

けれども同条に於ける六箇月間を一事業年度とみなすと規定せる所謂看做事業年度は中間申告納税-徴税上の擬制事業年度詳言すれば法定の租税期間の設定即ち計算期間を規定したに過ぎない。何となれば法人税法はその第一章総則-第七条にこの法律において事業年度とは法令又は定款に定める事業年度をいふとし原則として法令又は納税義務者たる法人の定款に定めた事業年度(原則)を又法人が事業年度の中途に於て解散し又は合併に因り消滅した場合において同条第二項の所謂看做事業年度(例外)を定めている。この規定はこの法律即ち法人税法に於ける通則であつて法第二十一条は更にその例外をなすものであり、同じく看做事業年度と謂うもその意味するところは極めて限定的に解されねばならぬ。換言すれば中間申告納税に関する限り爾く取扱うに止まるべきであつて法第十八条同第十九条第二十条が定款を以つて定める六箇月を事業年度とする法人の申告を規定した後を承けて第二十一条が設けられていることによつても明かであり全条章の体系から見るも規定自体の文詞からも当然推測し得るところである。

課税法規の目的の考慮は特に手続規定の解釈に顯著な意義をもちこの手続規定は課税要件に関する規定の目的拘束を受けそれに服従して解釈せらるべきであつてそれ自身目的として適用せらるべきではない。

原判決がこの文詞によつて一事業年度が二分せられたとするは手続規定に過重の意義を認め過重の形式的拘束により納税義務者に損害をかけぬよう解釈せねばならない租税法規解釈の法則に反した違法がある。

(二)原判決は中間申告の独立性を認め斯く解するときは確定決算に於て中間決算の税額以下の税額となる場合は法人に対し酷となる様であると自らその不合理を是認しつつ説明を展開し法人は何時でも事業年度を法第二十一条の如く為し得るし中間決算に於て損失となつていた場合は確定決算に繰入れる為め後期の利益で補填せらるることの利益もあり法第二十一条は法第二十二条によつて徴税上の必要と営業上の利益の調和がなされていると解し得ると説示するも、法人が何時でも事業年度を法第二十一条の如くなし得るか否かを問題とすべきではない。

法治国家に於て企業主体である法人の定めた定款の効果即ち私法的自由と経済的意義は充分保障せられねばならない。茲では納税義務者の権利保護と租税法上の効果と調和しない又調和することを得ないことも充分考慮せられねばならないことを問題としなければならない。事業年度の設定は私法的自由と法人の事業目的の経済的基礎によつてのみ選択せらるべきであつて私法上の一般的規律経済的自由の活動を租租法規の目的と合致するように変容し得ることの独断を以て判決理由を維持せんとし又中間決算に於て損失となつていた場合は確定決算に繰入れる為、後期の利益で補填せらるることの利益もあり法第二十一条は法第二十二条によつて徴税上の必要と営業上の利益調和が為されていると謂うもその独断は許されない。繰越欠損の後期認容は中間申告に基く不合理救済とは全く別個の目的に出ずる企業保護の租税政策上の問題である。

租税法規は経済上の成果を租税として捕捉することを要し、且つそれを以つて満足すべきであり空虚な形式理論を認めるべきものではない。裁判官の法規に対する地位は自由であつても全く広きに過ぎる結論を与えんとすることは失当たるを免れない。

(三)法第二十一条の制定理由(中間申告)は原判決説示の如く当時の我国経済事情に即応し且つ納税者の一括納税の苦痛を緩和すること等の考慮よりして法人の事業年度の期間が六箇月を超える法人の法人税の徴収に当り法人税法の適用につき法定事業年度開始の日から六箇月間を一事業年度となみすと規定し中間申告納税の方法が案出せられたことは判示所論の如くである。即ち法定事業年度が六箇月より長期の法人の事業年度は二分して課税の対象とせられた。

しかし同条の所謂看做事業年度(擬制事業年度)は単に中間申告納税を為すべき計算期間に過ぎない。(前述(一))従つてその中間申告による納税義務の性貭は判示想到の所得税法の予定申告と共通の性貭を有する。

その論拠は法第二十一条第二項、同第十九条第二項を準用し申告に際し概算による計算の提出を求めていること 法第二十二条第一項の確定申告の際法定事業年度全体についての決算に基いて所得申告を為すべきことである。この点原判決の首肯するところである。抑々法人の所得に対する課税は第二種所得として所得税法中に規定されていたものであるが昭和十五年制定され単行法となつた法人税法で初めて別個に取扱わるるに至つた。それ故所得税法は法人税法の母法たる沿革を有する。所得税法に於ける予定申告納税と法人税法に於ける中間申告納税とはその趣旨に共通するものあることは勿論である。唯前者は過去の所得(実績に加うるに将来の所得(予算)に属する部分を合算し後者は過去の所得(実績)のみを内容とするだけの相違である。

何れにしても共に租税義務者が租税期に於て前納として前者は年三回推定的に、後者は年二回同じく推定的(法定事業年度を経過し決算確定による清算を予想)に相当金額を前納する。この前納制度は租税期間の終期即ち前者については翌年一月三十一日後者については法定事業年度終了の日より二箇月以内に一種の清算的納税-法規に定むる確定申告による納税-により租税給付義務の完了を伴うものである。斯く暫定的に徴収せらるる租税債務の本貭は全く同一のものと解すべきである。このことは法第二十二条で法定事業年度終了の日から二箇月以内にその確定した決算に基き当該事業年度(法第二十一条第一項の規定により一事業年度とみなされた期間を含む)の確定決算に基く諸計算書を添附した申告書を提出すべき明示的規定から推論し得る。

斯く解することによつて法定事業年度の確定決算を解除条件とする説によつては解明し得ない既納税金還付に関する問題も前納額が租税債務の終局的高度を超ゆるという理由によつて正当に還付請求権を認め得て氷解せられ又過誤納税金充当に関する規定の引用などは殆ど問題とならない。況んや所得税法第四十条の如き規定を必要としないことも自明の理となる。

加之これによつて終局的租税債務の確定が当該法人の法定事業年度の確定決算に対する課税と矛盾なく解決し得ることを論証し得る。

(四)一定の経済的表徴が存在するとき課税要件が実現せられ又実現せられたとしてもその限度如何を終局的に決定することの可能でない場合が起り得る。

租税法はかかる場合に於て租税を暫定的に決定するか又は租税認定を一時中止するかを許している。所得税法及び法人税法に於ける予定申告、概算申告、中間申告及び確定申告に関する一聯の規定はそれである。而して税額を暫定的に決定する決定処分は終局的決定と同一の手段により取扱はれ不確定の点が除かれた後に於ては暫定的決定は確定せられる。

このことは法人税法に於ける中間申告に対して法第二十五条の修正申告又は法第二十九条の更正決定が為さるることなくして法定事業年度が終了して確定申告が提出せられ中間申告に基く納税額が確定申告に基き納税すべき算出税額からの差引が行われ且つ終局的租税額が確定される場合を想定すれば了解せらるるであろう。この場合中間申告は恰も独立性ある如き様相を呈する。而しその故に独立性あるとは断じ得ない。否 中間申告に基く納税義務は法定事業年度の確定申告に基く終局的税額と差引が行われる運命をもち、次の租税期に至るまでは何時でも暫定的な支払であり確定申告に対して法律的には常に従属的地位-性貭をもつて成立するに過ぎない。

この関係は次の納税期に至るまでの所得の予想的変更が顯著な場合に最も妥当し且つその規定の存在的根拠が理解し得る。従つて原判決が採用した三の説に於て難点とせらるる法第二十二条第一項は確定決算は中間決算に計上したものも包含せしめるので法第二十六条第一項第五号によつて中間申告による税額を控除しても(この判示は理解し得ない)下半期の所得については法第十七条により超過所得額に対する税額は中間申告のそれの上に逓増されるので不当であるという不当も一切完全に解消し得る。

何となれば確定申告に於ける納税額は法定事業年度の確定決算に基く所得申告を対象とする普通所得及び超過所得に対する法人税額より現実納付した税額(前納額)を控除した数額であるからである。故に超過所得額に対する税額は中間申告のそれの上に逓増される不当がある筈はない。

又中間申告に対する更正決定をしなかつた場合徴収不能を生ずる虞ありとする原判決の杞憂も完全に解消し得る。

(五)租税債務が実体的規定に基いて発生してもその税額の決定が終局的決定又は一定の納付期限の到来に繋がらしめられる前納義務は定額決定が始めから確定する課税に比し履行が時間的に弱められることは実際であろう。

しかし前納義務が成立する限り租税義務者に対して法律の根拠に基いて租税債権の給付を請求する政府の権能に消長を及ぼさない。即ち法第二十六条第一項第七号により中間申告をすれば直ちに納税すべく若し怠れば法第二十八条、国税徴収法第九条により督促並に滞納処分を受くべきこと、中間申告を遅滞し又は怠れば法第二十六条第二項、同第三十条、同第三十三条、同第四十二条、同第四十三条により加算税、追徴税を課せられることは謂うまでもない。

以上要するに原判決は法第二十一条に規定する中間申告に対する解釈を誤り従つて法第四十八条の適用に誤りがあるものと思料せられ若しこの中間申告に対し逋脱罪が成立せざるものとすれば被告会社を第二期中間の逋脱罪につき罰金参千五百万円に処したる部分は無罪となるべきものである。

第六点原判決には訴訟手続に法令の違反がありその違反が、判決に影響を及ぼすこと明かな場合を含んでいる。第一 原判決はその主文に於て「訴訟費用は被告会社と被告人の連帯負担とす」としその適用法条として刑事訴訟法第百八十二条を挙げている。この規定は共犯に関する訴訟費用の規定である事は明瞭である。

本被告事件に於ける各被告が共犯関係又は共犯関係に準ずる場合でないことは法第四十八条、同第五十一条に於て明かな如く法人の行為者が罰せらるる事を前提として始めて法人自身を罰せらるる事となり一種の連坐規定であり、共犯としての要素を何等包含していない事によつて明かである。従つて、本件に於ける各被告に対しては刑事訴訟法第百八十一条によつて訴訟費用を負担せしむべきであり、その際の各被告の訴訟費用の負担は各自平等か或は全部一被告か比例的割合かの何れかでなければならない。

而して原判決に於ける各被告の負担部分は一応各自全額である。たとへ被告等の内部の求償関係がどのように行われようとも、少くとも各自が一応全額の訴訟費用を負担する事と、その一部をのみ負担する事では被告人等にとつて大きな相違を来すのみならず判決そのものに影響を及ぼすことも自ら明かである。此点に於て原判決は破毀せらるべきである。(他の論旨は省略する。)

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